水草牧師の説教庫

聖書からのメッセージの倉庫です

盗むな 与えよ  (第八戒)

出エジプト20:15

15**,盗んではならない。

 

 第八の戒めは「盗んではならない」です。今回も、新約の時代の観点から、その中身を吟味し、そして積極面を明らかにしたいと思います。つまり、旧約はネガティブに「盗むな」と行動にブレーキをかけるのですが、新約はまずその心の中にある行動に至る前の動機を神はご覧になり、次に、積極的にはなにをせよとおっしゃっているかです。

 

 1 禁じられている内容

 

 ハイデルベルク信仰問答は次のように述べています。

 

問110 神様は第八戒において、何を禁じておられますか。
答 神様は、ただ、裁判所が罰する盗みや略奪を禁じているだけではありません。
 神様は、また、わたしたちが、隣人の財産を自分のものにしようと企む、すべての計略や人を欺く手だてをも盗みと呼ばれるのです。
 つまり、暴力であろうと、

 合法であることを装うたとえば、不正な重り、物差し、升、粗悪な商品、偽造したお金、不当な利子、あるいは、神様が禁じられた、いかなる手段によってでもです。
 また、神様は、すべての貪欲、神様の恵みの無駄な浪費をも禁じておられます。

Not only A but also Bです。

(1)心の中まで

 「盗んではならない」という戒めが、具体的に裁判所が罰する窃盗とか略奪を禁じていることはいうまでもありません。人間の裁判官がさばくことができるのは、実際、このように具体的に盗みをおかした場合だけです。盗みを犯しそうだとか、盗みそうな思想をもっているということで予防拘禁などしてはなりません。人間の裁判においてはそれで充分です。人間の裁判官は人の心の中まで知ることはできませんから、それは審判の対象外です。

 しかし、心の中まで知り尽くしておられる神のまえではそれだけではすみません。「隣人の財産を自分のものにしようとたくらんだならば、まだ盗む前であっても、神の前ではすでに盗みを働いたのです。盗みの道具は「不正な重り(天秤ばかりのです)、物差し、升、粗悪な商品、偽造したお金、不当な利子」です。

 

(2)正当な労働の対価を払わない雇い主

 またヤコブ書には、労働者に対して十分な労働の対価を支払おうとしない、金持ちたちは、たといこの世では合法的であっても、神の前には泥棒だと教えています。そして、警告がされています。「5**章**

1**,金持ちたちよ、よく聞きなさい。迫り来る自分たちの不幸を思って、泣き叫びなさい。

2**,あなたがたの富は腐り、あなたがたの衣は虫に食われ、

3**,あなたがたの金銀はさびています。そのさびがあなたがたを責める証言となり、あなたがたの肉を火のように食い尽くします。あなたがたは、終わりの日に財を蓄えたのです。

4**,見なさい。あなたがたの畑の刈り入れをした労働者への未払い賃金が、叫び声をあげています。刈り入れをした人たちの叫び声は、万軍の主の耳に届いています。

5**,あなたがたは地上でぜいたくに暮らし、快楽にふけり、屠られる日のために自分の心を太らせました。」

 

 労働者に正当な労働の対価を支払わず、また、中小企業の仕事を買いたたき、ひたすら内部留保をしている現代の日本の大企業の経営者たちに対して、神の怒りは激しいものです。この世においてか、最後の審判においてか、正義の神は、労働者から盗んでいる金持ち経営者たちには、恐るべき怒りをくだされることです。

 日本では、政府はウソの統計に基づいて「実質賃金は上昇している。アベノミクスは成功している」と言ってきました。しかし、実質賃金は、1997年を100とすると、2016年現在で、スウェーデンは138.4、オーストラリアは131.8、フランスは126.4、英国125.3、ドイツ116.3、米国115.3と先進諸国は軒並み上昇している中で、日本の実質賃金だけは89.7と一割下がっています。他国も下がっていれば世界的傾向と言えましょうが、日本だけとなると、明らかに政治の失敗のせいです。賃金はここ20年下がり続けているのですから庶民の生活が苦しく、いつまでたっても国内需要が伸びないのは当たり前の話です。政府は消費が伸びないと嘆くのですが、賃金を一割も減らしておいて、ものを買えといっても無理です。

 では、なぜ実質賃金は下がっているのでしょうか。景気が悪くて、大企業がもうかっていないからでしょうか?そんなことはありません。大企業は史上空前の内部留保(たくわえ)を、税金のかからない外国にしています。労働者の実質賃金が下がっている理由は単純なことで、2つあります。

 一つは消費税で庶民からお金を搾り取ることによって、大企業が税金を納めない分を補っているからです。

 もう一つは大企業が労働者に本来支払うべき賃金をを払わず盗んでいるからです。どのようにして賃金をカットしているのかといえば、社員の多くを契約社員で賄うことによってです。

 ここ20年来、政府がそういう不法なことを許してきてしまったのです。

 神はこういう不公正な政府、不公正な大企業の責任者に、いずれこの世においてか、次の世において、必ずさばきをくだされます。

 

2 十分の一献金をしないこと

 

 盗みということについていえば、神から盗むなと聖書は教えています。神から盗みを働きながら、祝福だけくださいということはありえないことです。マラキ書は次のように教えます。

 

マラキ書3:8-10

 8**,人は、神のものを盗むことができるだろうか。だが、あなたがたはわたしのものを盗んでいる。しかも、あなたがたは言う。『どのようにして、私たちはあなたのものを盗んだでしょうか』と。十分の一と奉納物においてだ。**

9**,あなたがたは、甚だしくのろわれている。あなたがたは、わたしのものを盗んでいる。この民のすべてが盗んでいる。**

10**,十分の一をことごとく、宝物倉に携えて来て、わたしの家の食物とせよ。こうしてわたしを試してみよ。──万軍の主は言われる──わたしがあなたがたのために天の窓を開き、あふれるばかりの祝福をあなたがたに注ぐかどうか。

 

 神を試みてはいけないというのは、聖書の基本的な教えなのですが、ここだけ例外的に神を試みて見よと神様はあなたにチャレンジなさるのです。 

 

3 アクセル

 

 では「盗んではならない」というブレーキの戒めを積極的に言い換えると、どうなるでしょうか?一つは上に申し上げたように十分の一は収入があったら最初に聖別して生活するという経済原則を生活の中に確立することです。そうすれば、神はあなたの経済を守られます。

 神のご命令は、神を愛することとともに隣人を愛することです。そこで、次のように使徒は命じます。

エペソ28**,「盗みをしている者は、もう盗んではいけません。むしろ、困っている人に分け与えるため、自分の手で正しい仕事をし、労苦して働きなさい。」となります。

なんと素晴らしいことでしょう。今まで不正なことをして利益を上げていた人が、イエス様を信じて新しい人として生まれ変わるとき、単に泥棒をやめるだけでなく、正しい仕事をして、困っている人を支援したくて一生懸命働くようになるのです。まさに、新しい人生、新しいいのちを生きているのです。

 ハイデルベルク信仰問答書は次のように述べています


問111 ならば、神様はこの戒めにおいて、あなたに何を命じておられるのですか。
答 わたしが、わたしのできる限りにおいて、わたしの隣人の利益を助け、そして、隣人に対して、人がわたしにして欲しいと思うことをすることです。また、わたしが困っている人を、その苦しみから助けることができるようにと、熱心に努力することです。

 

 その実例の一人が、取税人ザアカイです。ルカ19章

 

1**,それからイエスはエリコに入り、町の中を通っておられた。2**,するとそこに、ザアカイという名の人がいた。彼は取税人のかしらで、金持ちであった。3**,彼はイエスがどんな方かを見ようとしたが、背が低かったので、群衆のために見ることができなかった。

4**,それで、先の方に走って行き、イエスを見ようとして、いちじく桑の木に登った。イエスがそこを通り過ぎようとしておられたからであった。5**,イエスはその場所に来ると、上を見上げて彼に言われた。「ザアカイ、急いで降りて来なさい。わたしは今日、あなたの家に泊まることにしているから。」

6**,ザアカイは急いで降りて来て、喜んでイエスを迎えた。

7**,人々はみな、これを見て、「あの人は罪人のところに行って客となった」と文句を言った。8**,しかし、ザアカイは立ち上がり、主に言った。「主よ、ご覧ください。私は財産の半分を貧しい人たちに施します。だれかから脅し取った物があれば、四倍にして返します。」

 

むすび

 キリストに出会い、キリストを人生にお迎えすると、私たちは盗む人から与える人に変えられます。自分のことだけできゅうきゅうとしていた人が、神様にささげ、隣人に与えることが喜びであることを知るようになるのです。まことの神さまは与える神様ですから、このお方の姿が、その人のうちに回復されていくときに、人は与える人になっていくのです。

 新しいキリストのいのちが、その人格の中心に入って来る時、人は変えられます。盗んでいた人が施す人になり、その喜びのために一生懸命に働く人になるのです。キリストのみわざ、聖霊のいのちはなんとすばらしいものでしょうか。